日本の米はどこへ向かう?──新農水相の政策が示す未来図

政治

2025年春、新たに就任した農林水産大臣が掲げた米政策が、業界関係者から消費者まで幅広い関心を集めている。日本の農業、とりわけ米作りは、長らく補助金と需給調整に支えられてきた。だが近年、人口減少や食の多様化、輸出戦略の強化などにより、その在り方は根本的な見直しを迫られている。

新農水相はこうした状況に対応すべく、従来の枠組みにとらわれない大胆な政策転換を打ち出した。その柱は「生産調整の廃止」「輸出強化」「スマート農業支援」「備蓄制度の再設計」の4つだ。本稿では、それぞれの施策が何を意味し、どんな影響を及ぼすのかを丁寧に解説していく。

生産調整(減反)の完全廃止へ

2025年6月、農水省はこれまで残っていた都道府県ごとの目安的な生産数量目標の提示を正式に終了することを発表。事実上の減反政策の完全廃止である。

生産調整は1970年代から続いてきたが、米の消費量の減少に伴い、その効果と副作用が指摘されてきた。一部では「農家の自由な経営を縛る制度」「競争力を奪ってきた元凶」とも言われてきた。

新農水相は、「農家に経営判断を委ねる時代に移行する」と明言。これにより、農家は市場の需要を見ながら自律的に生産量を決めることが求められるようになる。市場原理がより色濃く反映される一方、価格の乱高下リスクへの懸念も残る。

輸出を見据えたブランド米戦略

生産調整を廃止する背景には、国内市場の縮小がある。そこで注目されるのが「輸出」の拡大だ。新農水相は、米の輸出量を2030年までに現在の2倍にするという目標を掲げている。

その実現に向けて、国際市場で通用するブランド米の育成が急がれている。「ゆめぴりか」「つや姫」「新之助」など、品質で高く評価されている品種の輸出を支援するほか、現地ニーズに応じた品種開発も視野に入れている。

さらに、輸出用精米施設への補助金、物流コストの支援、ハラル認証取得の助成など、きめ細かな施策が盛り込まれており、農業の輸出産業化が本格的に進むことが期待される。

スマート農業と若手支援の拡充

米作りは高齢化と後継者不足が深刻だ。新農水相は、これに対応するためスマート農業への投資と若手人材の育成を重点政策に位置づけた。

ドローンによる播種(はしゅ)や農薬散布、自動運転トラクター、水田のセンシングによる水管理など、テクノロジーを活用した農業支援策が加速している。これにより、重労働の負担軽減と収量・品質の安定化が見込まれている。

一方、若者の就農を後押しするため、農業法人の設立支援や、地域と連携した研修制度、一定期間の所得保証なども盛り込まれた。農業を“魅力ある産業”に変えるという構想の一環だ。

備蓄制度の見直しと価格安定策

日本のコメ政策の大きな柱の一つが「政府備蓄米制度」だ。災害や不作に備えると同時に、市場価格の暴落を防ぐ役割も担っている。これまでは年産80万トン程度の備蓄が行われてきたが、新農水相はこれを「量から質へ」と転換する方針を示した。

具体的には、過剰な備蓄による市場ゆがみを避けつつ、高品質米や災害時に即利用可能なパッケージ米など、使いやすい備蓄に再構築する。また、備蓄の入れ替えで発生する古米の活用についても、加工用や海外援助としての利用が進められる見通しだ。

加えて、米価が極端に下落した際のセーフティネットとして、民間の収入保険制度との連携強化や、新たな価格安定基金の創設も議論されている。

今後の課題と展望

新政策はこれまでの「保護」から「競争」と「自立」へと大きく舵を切るものだ。そのため、農家側には市場理解と経営力がこれまで以上に求められる。

一方で、制度変更の過渡期には価格の乱高下や需給のミスマッチが起きやすい。特に小規模農家にとっては、経営の不安定さが深刻な問題となり得る。そうした影響を和らげるための「ソフトランディング策」が重要となる。

また、輸出強化の一方で、国内の安定供給や価格維持をどう両立するかという課題も残されている。農水省には、現場の声を丁寧に拾いながら、柔軟で実効性のある政策運営が求められる。

終わりに──「守る」から「育てる」政策へ

新農水相の米政策は、日本の農業が大きく生まれ変わる可能性を秘めている。守るべきものを守りつつ、時代に即した農政への転換を進めていけるか。今後数年間の取り組みが、その成否を大きく左右することになるだろう。

農家、流通業者、消費者──すべての立場が変化の波にどう対応するかが問われる中で、新しい米政策が未来の日本にどんな風景をもたらすのか。引き続きその行方を注視していきたい。

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